リレーインタビューVol.6 | チャイルドライン

リレーインタビューVol.6


教育は未来への投資です
ほんものの「学力」をいま、子どもたちへ
2008年3月25日
教育評論家
尾木 直樹 様
プロフィール

1947年滋賀県生まれ。現在は東京都武蔵野市在住。
早稲田大学卒業後、海城高校、東京都公立中学校教師、東京大学講師として、22年間ユニークで創造的な教育実践を展開。その成果は170冊を超える著作物やビデオソフト、映画等にまとめられている。

「キレる子現象専門家会議」(東京都)委員、「青少年と放送に関する専門家会合」 (郵政省、NHK、民放連)委員、「いじめ防止学習プログラム」開発委員長(新潟県)、 「放送分野における青少年とメディア・リテラシーに関する調査研究会」(郵政省) 委員、「放送倫理機構(BPO)」(NHK、民放連)の「青少年と放送に関する委員会」 副委員長等歴任。

現在は、法政大学キャリアデザイン学部教授、早稲田大学大学院教育学研究科客員教授として、学生やゼミ・論文指導、臨床教育学、教育相談論、キャリアガイダンス論等を講じている。また、全国への講演、テレビやラジオのコメンテーター、対談、新聞・雑誌等への執筆、単著の出版、教育相談、カウンセリング等に幅広く活躍している。主宰する臨床教育研究所「虹」では、所長として子どもと教育、メディア問題等に関する現場に密着した調査・研究活動にも、精力的に取り組んでいる。


めがねの奥のあたたかくて鋭いまなざし。いまの日本の最重要課題でもある教育問題でも本質をとらえ、そしてつねに子どもを主人公においた発言で多くの支持を得ている尾木直樹さん。さきごろ発表された指導要領改定からチャイルドラインの話まで、たっぷりと語っていただきました。
 
―文部科学省は2月15日、国語、算数、社会、理科などの主要教科の授業を1割以上増やすことなどを柱に、小中学校の学習指導要領改定案を発表しましたね。

ええ。いわゆる「ゆとり教育」で学力が低下したとの批判にこたえることが狙いで、小学校は2011年度、中学校は2012年度から実施されますが、現場はまた混乱するでしょうね。だって、前回の目玉だった「ゆとり教育」が否定されたことになるんですよ。猫の目のように変わる改革には、国としてどういう人間を育てたいのか、というポリシーがない。先生も生徒も親もみんな右往左往しますよ。

そもそも、「学力」とは一体、なんでしょうか。学力の定義とは「人生を切りひらき、社会参加するリテラシー」なんですが、日本でいう学力はどうも違う。日本ではペーパーテスト、つまり知識を学力とする向きがある。今回の指導要領も「生きる力の育成」を基本理念に掲げ、思考力、判断力、表現力の向上をめざすといっていますが、たとえばフィンランドでは生きる主体としての人間を育てるためには、発想力、論理力、批判的思考力、表現力、コミュニケーション力が必要だとしています。日本のように、茫漠としていませんよね。「思考力」ではなく「批判的思考力」だとね。

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また、日本では「応用力が大事」ともいわれますが、諸外国では応用力ではなくて「活用力」、つまり実生活で活用するときの力が大切だと。学校で学ぶことも「生きる」うえでの知恵に直結していて、子どもたちの生活を応援しているんです。おとなが真に子どもの人生に責任をもっているといっていいのではないでしょうか。日本は、この活用力に関してはとことん悪いというのが実情です。いまを生きる主人公として、子どもをとらえていないんです。
 
そうですね。これだけ子どもたちのことが話題になっているのに、日本ではなかなか子どもの問題が解決のきざしをみせません。

1998年6月、日本は国連から「国の教育制度が子どもにストレスを与える」と勧告を受けたただひとつの国なんですよ。でも、日本のマスコミはこんなに大事な問題を大きく扱おうとしません。本来なら、大ニュースになってもいいのに、新聞の記事も小さかった。おとなが子どものことを真剣に考えているとは思えません。
  ちなみに、もっとも学校のストレスがかからない国はオランダです。子どもたちが生きていくのに、ほんとうに大切なものはなんなのか、なにを子どもたちに身につけさせればいいのか、もっと根本から考えていくべきです。
 
いじめもなくなりませんし、子どもたちの自殺もあとをたちませんね。

2006年度、児童・生徒の自殺は確認されているだけで886人でした。また、その年の自殺者の総数は32500人。9年連続で3万人をこえるという自殺大国です。自殺未遂はその10倍といわれていますから、この10年でおよそ300万人がいのちの危機にさらされてきたことになります。横浜市の人口が352万人ですから、10年で横浜市がすっぽりとなくなってしまうのと同じです。

わたしは自殺は「社会的殺人」だと思います。だって、自殺はネットワークをつくれば防げるんですよ。でも昨年、ユニセフの調査では、先進国(OECD)のなかで中学3年生に「あなたは孤独を感じますか?」と聞いたところ、日本はダントツの1位でなんと29.8%もの子どもたちが「イエス」と答えています。2位はアイスランドで10.3%、3位はポーランドの8.4%。ふつう5?10%なのに、日本では3割もの子どもたちが孤独だと言っている。自殺の多さと無関係ではないでしょう。こんな状態の子どもたちをほおっておいていいのでしょうか。ちなみに、もっとも低い国はさきほどのオランダで2.9%です。

また、2007年10月、北海道大学医学部の医師6人が道内の小学校8校と中学校2校(小学4年から中学1年まで)の子どもたちを診察したところ、中1では10.7%がいわゆるうつ病やそううつ病にかかっていたといいます。これは、文部科学省の3年前の報告(小学校7.8%、中学校22.8%、とくに中3生は30.4%に抑うつ傾向があり、そのうち20-25%は本物の病気になる)を裏付ける結果となりました。
 
チャイルドラインへの電話も最近、「こころの不安」を訴える子どもたちがふえてきています。

日本はこんなに経済的にはゆたかになったのに、子どもたちは「孤独」をかかえて苦しんでいる。次世代をまともに育てられない国に未来はありません。フィンランドは経済を立て直したんですが、まず手をつけたのは教育でした。そう、教育は未来への投資だとね。人間を育てれば、経済はあとからついてくると。そのとおりだと思います。

とにかく、子どもたちを「ひとりぼっち」にさせないように、おとなはしっかりと見守っていかなくてはなりません。その意味でも、チャイルドラインは子どもたちにとっては、大事なラインになってきていますし、もっともっと充実させていかなくてはなりませんよね。
子どもは社会的存在であり、たしかな世界観をもったひとりの人間です。そして、おとなと子ども

はいまを生きるパートナーです。先日、岡山の高校生が修学旅行でわたしの研究室を訪ねて来ました。この高校の先生がすばらしいのは、わたしにアポイントをとるところから生徒にさせていること。実際にアポがとれた段階であらためて校長先生から連絡があり、お礼と趣旨を説明してくれるんですね。このプログラムの主人公は生徒で、ちゃんと真ん中に生徒をおき、社会参加させています。事前にメールで送られてきた「尾木さんに聞きたいこと」もすばらしく、たじたじとなりましたが(笑)。

チャイルドラインもぜひ、おとなだけでがんばるのではなく、子どもとともにつくりあげていくという視点を忘れないでほしいですね。
 
インタビューを終えて

ユーモアあふれる語り口にぐいぐい引き込まれてしまいましたが、でも子どもたちへのたしかなまなざしと問題をするどく抉る視点にほんの少しのぶれもなく、さすがです。
これからも、日本のために、そして日本の未来のために、ひとりでも多くのおとなに語りつづけてください。かげながら応援しています。

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